第一回 室温超電導はスーパーマンの夢を見るか
みなさんは「超伝導」という物理現象をご存知だろうか。
超伝導(superconductivity)とは、オランダの物理学者ヘイケ・カメルリング・オネスが発見した、「特定の物質を超低温にしたとき、その電気抵抗が限りなくゼロに近づく」という現象である。
超伝導はそれに加え、磁力をかけると浮く性質もある。この性質を利用しようというのが「超伝導リニア」で、まさに空飛ぶ車である。
超伝導を利用すれば、送電中の電力ロスも少なくなるし、おなかに超伝導になる物質を貼り付ければスーパーマンになれるが、現実はそううまくいかない。超伝導は-273℃付近、高くても-140℃ほどの超低温下でしか実現していなかった。
そんなに冷たい状態を保つのは大変だ。現在も多くの超伝導を利用したものがあるが、いかに超低温状態を保っているか、またそのコストが課題であった。
数多くの研究者がより高い温度で超伝導を実現しようと競うようにして実験を行ってきた。
年月を経るごとにその温度はあがり、ついにマイナスを脱すことに成功したのである。
10月14日にNatureに掲載された研究論文で、約15℃で超伝導を実現したことがロチェスター大学の研究チームによって報告された。
これまで、氷点下でのみ実現されていた超伝導が、室温程度で実現できることが確認されたのである。
おめでとう。これからはわざわざ凍えながら空を飛ぶ必要はなくなった。ヒートテック1枚で、悠々自適な空の旅が楽しめるだろう。
と、言いたいところだが、15℃での超伝導を実現するには少なくとも大気圧の250万倍の圧力が必要だ。深海の水圧は恐ろしいということはご存知だと思うが、地球上で最も水圧の高いマリアナ海溝でさえ、大気圧の1000倍程度の圧力でしかない。
我々は晴れて凍えながら空を飛ぶか、ぺちゃんこになりながら空を飛ぶか選ぶ権利を得たわけだが、人類は課題を見つけクリアし、また新たな課題をクリアすることを積み重ね知見を得ている。
今回の室温超電導の実現は、科学にとっての大いなる一歩であることは間違いないし、人間の可能性というものを強く感じさせる。
車が空を走り、人が空を飛ぶ未来はそう遠くないかもしれない。
著:近藤
超伝導に興味を持たれた方におすすめ!