第六回 ピンポンダッシュでイグノーベル平和賞
どの小学校にも「ピンポンダッシュ」をするような悪ガキが一人はいたはず。度胸試しと称して知らない家のインターホンを鳴らす。いい思い出だけど、今となっては相手の迷惑を考えたらたまったものじゃない。もし小学生がピンポンダッシュしてきたら、全力で裸足のままどこまでも追いかけてやる所存だ。
無駄話はこれくらいにして、実は今インドとパキスタンの外交官同士での“ピンポンダッシュ”の応酬が話題になっている。
インドとパキスタンは1947年の両国の独立からカシミール地方をめぐって対立が続いていて、3度の戦争を経験した今でも両国間で緊張状態が続いている。
そんな不仲を皮肉にしたのか、この両国の外交官は2020年イグノーベル平和賞に受賞された。受賞内容は『夜中にお互いピンポンダッシュしあったことに対して』とのこと。
外交官がピンポンダッシュ?あまり想像ができないが、あまりの不仲のせいで互いの外交官が真夜中に相手の家にこっそり近づきインターフォンを押し、急いでその場から立ち去るという行為を何度も繰り返していたそう。
どこか微笑ましい受賞内容はまさにイグノーベル平和賞にふさわしい気もする。
しかし、“ピンポンダッシュ”のほのぼのしさに騙されずよくよく考えてみてほしい。互いの国の外交官に嫌がらせし合うというのは、国際問題にもなりかねないような重大事件じゃないか?
こんな嫌がらせが日常的に行われていることを考えると、両国間の不仲は相当なものだろう。実際、ピンポンダッシュ以外でも、迷惑電話や後をつけられたり、水道や電気を止められたりなど多種多様な嫌がらせを受けているようだ。国同士の争いに巻き込まれている外交官たちのストレスは計り知れない。こんなことを繰り返していたらますます両国の不仲は加速していくだろう。
今年のイグノーベル賞は面白いながらも少し考えさせられるような受賞内容な気がする。「ピンポンダッシュをし合うくだらない争い」のように見えて、「国の対立の恐ろしさ」を世界に発信しようとしたのではないだろうか。くだらない研究や実験がメインのイグノーベル賞だが、こういった社会風刺のような側面もある。そんな自由さがきっとノーベル賞にはないイグノーベル賞の良さだと思う。
最後になるが、結局ピンポンダッシュは完全悪だということが読者のみんなは分かったと思う。小中学生の諸君は国際問題に発展する前にピンポンダッシュをやめ、大人たちは二度とさせないためにも全力で追いかけることが平和へのピンポンダッシュなのではないかと私は思う。
著:嶋貫