科学未来タイムズ

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第七回 奇跡の精力剤、ついに見つかる

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男として生まれたならば、どんなときでも元気でいたいものだ。意中の人と過ごす夜は特にそうである。そんな悩める我々を救ってくれる精力剤。その中でも奇跡の精力剤とも呼ぶべき飲料が発見されたのだが、それは意外にも我々に身近な存在であった。

「PLOS ONE」に掲載されたアメリカ人を対象にした調査によると、カフェインを摂取している男性、特に毎日コーヒーを飲む男性のED(勃起不全)報告率が、カフェインをまったく摂取しない男性に比べ低いことが分かった。摂取するカフェインが少量であっても33%、量によっては42%も低減するそうだ。

そう、奇跡の精力剤とはコーヒーのことなのである。

「なんだよ、どこが奇跡だよ」と思われたそこのあなた、もう少しだけお付き合い願いたい。

コーヒーにED抑止の効果があるのは数年前からすでに知られていたことだし、ほかの精力をつける食品と比較しても著しく効果がある、なんてことはない。

私がコーヒーを奇跡と呼ぶのは、人間に対しての効果が高いからではない。

コーヒー(カフェイン)が虫の性行動に対しても影響を及ぼすからである。

岡山大学の研究グループは、カフェインを経口摂取したコクヌストモドキのオスは、一連の求愛行動パターンが加速することを発見した。この研究成果は「Ethology」に掲載されている。

カフェインを摂取したコクヌストモドキのオスは、摂取していないオスに比べ、メスと遭遇してから求愛するまでの時間、メスにマウントをするまでの時間がいずれも短くなり、より早く交尾器を突出させることがわかった。

カフェインはドーパミンを活性化する作用があり、人間の気分を高揚させる効果があるのは周知の事実であろう。また、ヒト以外に対しても、ハエの睡眠やハチの学習記憶能力に作用することも知られていたが、今回新たにコクヌストモドキの性衝動を高める効果もそこに加わった。

これで、各家庭で飼われている虫を繁殖させたいときはカフェインを与えればいいことが分かった。私はそのことを知らなかったばかりに、ある悲劇を経験したのだが、本記事は、その悲劇にて締めくくらせていただくとしよう。

私が小学生のころ、ホームセンターでつがいのコーカサスオオカブトを購入した。毎日昆虫ゼリーを与え、丁寧に飼育していたのだが、二匹は一向に繁殖行動を取らなかった。それもそのはず、購入時より、二匹の暮らしていた虫かごには、オスとメスを分けるように透明なプラスチックの板が挿入されていたのである。

「ああ、なんてかわいそう」

シェイクスピア的悲劇を嫌った私は、ある日、両者の隔壁を完全に取っ払った。二匹の悲しい恋の終わりを予感すると、近藤少年は笑顔であった。

翌朝、二匹の幸せな姿を見に行くと、そこには勇ましい角を三つはやした生首と、中が空洞になっているエメラルド色の胴体を発見した。その傍らには、静かに昆虫ゼリーを舐めるメスの姿があった。この日以来、近藤少年が昆虫を購入することはなかった。

二匹の一夜になにがあったのか、私には知る由もないが、あのとき、先の研究を知っていたならば、私は1つの命を救えていたのかもしれない。

 

著:近藤