科学未来タイムズ

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第11回 妊娠をコントロールする方法

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現代は不妊症で悩むカップルが多いと言われる。ネット検索すると、「結婚したカップルの3割以上が不妊に悩んでいる」と書かれた記事が見つかる。それほど多くのカップルを悩ませている不妊だが、近年、体外受精や顕微授精法などの生殖補助医療技術(ART)の進歩により、不妊治療は劇的に改善されている。しかし、これらの治療法は、受精卵を培養し、子宮へ戻して以降、つまり着床までをコントロールすることはできず、着床障害の方の治療には適していない。この着床障害を原因とする不妊にはいまだ有効な治療法がなく、ARTによる妊娠率は、現在伸び悩んでいる。

着床は、子宮内で行われる現象であるため、アプローチが難しく、いまだそのメカニズムは明らかになっていない。そんな中、ある研究が着床現象の解明に一石を投じた。

慶應義塾大学医学部産婦人科学教室の丸山哲夫准教授,岡山大学助教授の高尾千佳共同研究員,東京大学佐藤守俊教授は、「青色LED光の照射とゲノム編集を組み合わせることで、マウスの着床をピンポイントに調節することに成功した」という研究成果が、11月2日米国科学アカデミー紀要『Proceedings of the National Academy of Sciences』オンライン版に掲載された。

この研究は、着床に必要不可欠なLIF遺伝子を、青色光を照射したときだけゲノム編集を行う光活性化 CRISPR/Cas9(光Cas9)を用いた光遺伝操作のターゲットにし、マウスの着床をコントロールするというものだ。

(ゲノム編集についてはこちらの記事をお読みください)

science-future-times.hatenablog.com

交配したマウスに青色光を照射し、活性化した光Cas9によってLIF遺伝子を破壊された雌マウスは着床できず、逆に、LIF遺伝子を破壊されたマウスの子宮に新たにLIF蛋白を投与すると、着床が起きて、また妊娠できるようになる。このシステムを応用すれば、光を当てるだけで、子宮内の生命物質を自在にコントロールし、任意のタイミングで着床できるようになるのだ。

着床をコントロールできるということは、着床不全による不妊症の改善はもちろん、着床をブロックすることで避妊することもできるということだ。

私は以前から、不妊で悩むカップルが多数いる一方、望まない妊娠や中絶が頻繁に行われている現代社会に憤りを感じていた。なぜ、赤ちゃんを望んでいるのに授かれないひとがいる中で、新たな生命を軽視するようなことが見過ごされているのか。望まれない命など、本来あってはいけないはずである。

科学発展によって、幸せがひとつでも増えてくれると嬉しい。

 

著:近藤