科学未来タイムズ

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第九回 食生活でアレルギー予防

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アレルギー性皮膚炎に悩む人は少なくないだろう。

「みんな当たり前に触っているものに私だけが触れない。」

アレルギーを自覚する以前にアレルギー反応を起こし、その幼いころのトラウマで、大好きだったものが、いまや忌々しいだけのアレルゲンとなった人もいるだろう。私の知人は、以前、彼氏に誕生日でもらったペアネックレスを金属アレルギーのため身につけることができず、それが原因で疎遠になり別れてしまったと話していた。

アレルギー反応の出やすさには程度があるが、その大小にかかわらず、できることならアレルギーとは無縁な生活を送りたいものである。後悔しても遅いが、実は、アレルギー性皮膚炎は、こどものころの食生活が原因で発症しているかもしれない。

東北大学大学院医学系研究科器官解剖学分野の小林周平助教と大和田祐二教授らの研究グループは、アレルギー性皮膚炎の発症制御において脂肪酸結合タンパク質3型(FABP3)が重要な役割を果たしていることを発見した。この研究成果は、10月22日欧州アレルギー学会雑誌Allergy誌に掲載された。

このFABP3は、水に溶けない細胞内タンパク質で、様々な生体反応に関与すると考えられているタンパク質なのだが、これが欠損しているマウスは、そうでないマウスに比べアレルギー性皮膚炎の症状が強く、発症部はひどく腫れ、炎症を起こす原因をつくっているTリンパ球も集積していたのだ。

難しいことは置いておいて、私たち一般人に重要なことをまとめると、この研究から「胎児期や幼体期に摂取する脂質の量や組成が、成長後のアレルギー性皮膚疾患の発症に影響する」可能性があることが示唆されている。

今後、研究が進めば、妊娠中はこういう食事、生後何か月まではこれくらいの栄養バランスで生活すればアレルギーにならないよ、というような指標ができ、この世からアレルギーというものを消すことができる可能性がある。食事一つでアレルギー疾患を根絶できるとなれば、こんなに素晴らしい予防はない。

幼い子供たちやこれから生まれてくる命にとって、アレルギーが馴染みのない言葉になるかもしれない。

では、すでに幼児期を終えてしまっている私たちは諦めるしかないのだろうか。これからもこのやっかいな免疫反応と付き合っていかねばならないのだろうか。

もちろん、そんなことはない。

本研究成果はすでに、将来的なアレルギー疾患への治療戦略を見据えている。

早く治してくれと焦る気持ちもわかるが、ひとまずは、医学の更なる発展を期待しつつ、続報を待つことしよう。

 

著:近藤